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北海道人の大学選び⑫ 医学部を諦めるという選択肢

※本記事は2026年10月時点の情報をもとに作成している。各大学の入試制度、学費、国家資格の取得条件等は変更される場合があるため、最新情報は各大学・関係機関の公式資料で確認してほしい。

医学部医学科を志望していたものの、学力や経済的な事情、浪人年数などを考慮し、医学部以外への進学を検討する人もいる。

前回の記事では、医学部受験において浪人を続ける合理性について考察した。

では、医学部受験から撤退すると決めた場合、次にどのような進路を選ぶべきなのだろうか。

まず候補に挙がるのは、歯学部や薬学部だろう。いずれも医療に関わる学部であり、医師と共通する部分を持つ専門職を目指すことができる。

しかし、医学部を志望していた理由によっては、医療とは異なる分野に進む方が合理的な場合もある。

今回は、まず医学部からの自然な転進先を検討したうえで、医学部を志望していた動機そのものを手がかりに、別の進路の可能性を考えてみたい。

歯学部を考える

医学部を断念した受験生にとって、歯学部は有力な転進先の一つである。

歯科医師は、歯や口腔に関する疾患を自ら診断・治療する国家資格職である。医師とは診療対象や業務範囲が異なるものの、患者を診察し、治療方針を決定する専門職という点では共通している。

医師になりたかった理由が、患者を自分で診断・治療する仕事への関心だったなら、歯学部への転進には十分な合理性がある。

歯学部の入試はどの程度難しいのか

歯学部には、医学部医学科と比べて入試難易度がかなり低い大学もある。

河合塾Kei-Netによる2027年度入試の予想ボーダー偏差値を見てみよう。

大学・学部偏差値
北海道大学 医学部医学科(前期)65.0
旭川医科大学 医学部医学科(前期)62.5
北海道大学 歯学部(前期)57.5
北海道医療大学 歯学部(前期スタンダード)40.0

出典:河合塾Kei-Net・北海道大学、旭川医科大学、北海道医療大学

※方式別ランクを掲載。国公立と私立では受験科目や配点が異なるため、偏差値の単純比較には注意が必要である。

注目したいのは、歯学部の難易度が大学によって大きく異なることである。

国立の北海道大学歯学部は相応の学力を必要とする一方、私立歯学部には偏差値40台の大学もある。

つまり、医学部医学科に合格できない学力であっても、歯学部への進学まで難しいとは限らない。

入学できることと、歯科医師になれることは別

ただし、入試難易度と歯科医師資格の取得しやすさは別問題である。

文部科学省の2025年度資料によると、標準修業年限の6年間で卒業し、歯科医師国家試験に合格した割合は、直近3か年平均で北海道大学84.1%、北海道医療大学44.2%となっている。

出典:文部科学省「歯学部歯学科の学科別の修学状況等(令和7年度)」

この差には入学者の学力なども関係するため、大学の教育の質をそのまま比較した数字ではない。また、6年間で資格を取得できなかった人が、その後に歯科医師になる場合もある。

それでも、大学によって資格取得までの実績が大きく異なることは、進学先を選ぶうえで重要な情報である。

さらに、私立歯学部では6年間の学費が高額になる場合もある。

歯学部は医学部からの現実的な転進先だが、入学できるかどうかだけでなく、歯科医師として働きたいか、資格取得までの費用や時間を負担できるかまで考える必要がある。

薬学部を考える

薬学部も、医学部からの転進先として自然な候補である。

ただし、薬学部には薬剤師を養成する6年制課程と、創薬・生命科学などの研究を主な目的とする4年制課程がある。

薬剤師を目指すのであれば、6年制薬学科が基本となる。一方、医薬品の研究・開発に関心があるのであれば、4年制薬科学科から大学院に進学する道も考えられる。

両者は卒業後の進路が異なるため、分けて考えたい。

薬剤師は、医薬品や薬物療法に関する専門職である。医師のように疾患の診断を主な仕事とするのではなく、処方内容の確認、調剤、服薬指導などを通じて医療に関わる。

この仕事内容に魅力を感じるのであれば、6年制薬学部への転進には合理性がある。

一方、医師の収入や、患者を自ら診断・治療することに魅力を感じて医学部を志望していた場合、薬剤師が同じ希望を満たすとは限らない。

薬剤師も国家資格を持つ専門職だが、医師・歯科医師とは仕事内容も平均的な所得水準も異なる。

また、6年制薬学部でも、進級・卒業・国家試験合格までの実績には大学間の差がある。入試難易度だけで進学先を決めるべきではない。

その他の医療専門職はどうか

医療に関わる仕事には、看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、理学療法士など、さまざまな専門職がある。

いずれも医療現場で重要な役割を担っているが、仕事内容や資格によって認められる業務の範囲は、医師とは異なる。

医学部を断念したからといって、医療系という共通点だけで転進先を決めるのは適切ではない。

反対に、医師とは異なる仕事であっても、その専門分野や仕事内容そのものに魅力を感じるなら、十分に検討する価値がある。

結局のところ、医療系への転進が合理的かどうかは、医学部を志望していた理由によって変わってくる。

そもそも、なぜ医学部を目指していたのか

ここで、医学部志望の動機そのものについて考えてみたい。

2025年に公表された愛媛大学医学部の研究では、調査に回答した医学生531人のうち153人(28.8%)が、入学時点で医師になる明確な意思を持っていなかったと回答している。

そうした学生の進路選択には、保護者の期待や同級生の影響が関連していた。

自由記述には、成績がよかったこと、大学入試センター試験で高得点を取ったこと、塾から勧められたことなどを理由に医学部を選んだ回答も見られた。

出典:Kikuchiほか「Ambiguous motivations in medical school applicants: a retrospective study from Japan」(2025年)

これは1大学の調査であり、医学部志望者全体の傾向をそのまま示すものではない。また、医師になる明確な意思がなかったことと、周囲から高く評価されたいという動機は同じではない。

しかし、医学部を選ぶ理由が、必ずしも医師という職業への強い希望だけではないことを示す資料ではある。

ここで、医学部を目指していた理由を一度立ち止まって考えてみたい。

本当に、医師になりたいのだろうか。

病気に苦しむ人を治療したいのか。医学という学問に魅力を感じているのか。それとも、医学部が大学受験における最難関の一つだから、そこを目指しているのだろうか。

難関大学への進学を目指し、周囲から期待されるうちに、医学部合格そのものが自分の能力を証明するための目標になってしまうこともあるだろう。

大学受験は、偏差値や順位によって結果が明確に示される、分かりやすい競争である。その頂点を目指すことには、一種のゲームとしての魅力もある。

しかし、医学部入試で測られる学力と、医師として求められる能力は同じではない。

医師には医学的な知識だけでなく、患者との意思疎通、適切な判断、他の医療従事者との協働など、さまざまな能力が必要になる。受験勉強が得意だからといって、医師という仕事にも適性があるとは限らない。

そもそも、医学部に合格することと、医師として何十年も働くことは、まったく別の話である。

受験で高い成績を取ることと、望む職業人生を実現することは、同じではない。

高い収入や社会的地位を得たとしても、それが本人の望む人生になるとは限らない。

仮に医学部が現在ほど難関ではなく、医師という職業にも高い収入や社会的地位が伴わなかったとして、それでも医師になりたいだろうか。

自分が本当に求めているのは、医師として働くことなのか。

それとも、大学受験というゲームで、最も難しい目標を攻略することなのか。

受験の難易度や周囲からの評価に意識を向けるあまり、その先にある自分自身の人生を見失ってはいないだろうか。

医学部を志望した理由から、別の進路を考える

医学部を志望した動機を整理すると、医療系以外にも選択肢があることが分かる。

実際の志望動機は一つとは限らない。医療への関心と、収入や社会的地位への期待などが重なっている場合もあるだろう。

ここでは代表的な動機ごとに、どのような進路が考えられるかを整理してみたい。

患者を診断・治療したかった

この希望に最も近い転進先の一つが歯学部である。

歯科医師も患者を自ら診察し、診断・治療する国家資格職だからだ。

ただし、診療の対象は主に歯や口腔であり、医師と同じ仕事ができるわけではない。歯科医療そのものに関心を持てるかが判断のポイントになる。

医学や生命科学を研究したかった

この場合、医学部以外にも多くの選択肢がある。

理学部では細胞生物学、分子生物学、遺伝学などを研究できる。薬学部の薬科学系では創薬、農学部では微生物学や応用生命科学などの分野がある。

工学部にも医療機器や生体工学、医療情報など、医学と関連する研究分野が存在する。

研究職を目指す場合は大学院進学も重要になるため、学部名だけでなく研究室の専門分野まで確認したい。

高い収入を得たかった

医学部を目指した理由として、学術的な興味や人の役に立ちたいという思いだけでなく、高い収入への期待を挙げる人もいるだろう。生命科学や医学への関心があったとしても、医師という職業を選ぶうえで、収入は無視できない要素である。

とくに北海道のように、地域によって就職先や所得水準が異なる場所では、将来の生活を考える際に収入を重視するのは自然なことである。医師には高収入というイメージがあり、実際に収入が職業選択における重要な要素になっていることは、多くの人にとって否定しにくいだろう。

だからこそ、医学部を目指した理由が高い収入だったなら、医療系以外の職業も比較するべきである。

厚生労働省の2025年賃金統計をもとにした医師の平均年収は約1,512万円である。

しかし、民間企業にもこれを上回る所得水準の会社は存在する。

例えば、2026年3月期の有価証券報告書によると、三菱商事の平均年間給与は約2,113万円、ENEOS株式会社は約1,005万円となっている。

出典:厚生労働省「職業情報提供サイト」、三菱商事・有価証券報告書、ENEOSホールディングス・有価証券報告書

もちろん、平均給与は入社直後から得られる金額ではない。また、企業への就職には選考があり、高所得企業に入れることが保証されているわけでもない。

しかし、医師にならなければ高い所得を得られないという考えは、事実に反する。

ここで、FiveSchools代表の村上の経歴も一つの例として紹介しておきたい。

村上は北海道大学文学部出身で、就職活動ではJT、住友金属工業、新日本石油の3社から内定を得て、新日本石油に入社した。その後、同社を退職して教育業界に転じ、現在は進学教室FiveSchoolsを経営している。

新日本石油の事業を引き継いだ現在のENEOS株式会社で勤務を続けていれば、年収1,000万円を超えることは十分に現実的だっただろう。

この例で注目したいのは、文学部という、特定の高所得専門職に直結するわけではない学部からでも、こうした企業へ就職する道があることである。

もちろん、これは一例にすぎない。金融、商社、製造業、情報産業など、ほかにも高所得を目指せる分野は存在する。

さらに、医師と企業勤務者では、職業生活の始まり方も異なる。

医学部は6年制であり、卒業後も原則2年間の初期臨床研修が必要となる。一方、4年制大学から企業に就職する場合は、通常、それより早く給与を得始めることができる。

医師には夜間・休日の診療や当直などの負担もあり、勤務先や診療科によって労働時間が大きく異なる。

他方で、民間企業にも長時間労働や転勤、雇用環境の変化などがあり、医師には国家資格に支えられた職業上の安定性がある。

したがって、平均年収だけでどちらが有利かを結論づけることはできない。

しかし、高収入を得ることだけが目的なら、医学部への進学が必ずしも最も効率的な選択とは限らない。

例えば、収入が主な理由で医学部を目指しているのであれば、何年も浪人を重ねて医師になる道と、ストレートで大学を卒業し、より早く収入を得られる別の職業に就く道のどちらが、時間や費用まで含めて自分にとって有利なのかを、一度冷静に比較してみてもよいだろう。

なお、今後はAIの普及によって、企業の事務系業務や採用のあり方が変化する可能性もある。現在の高所得企業への就職ルートが、将来も同じ条件で維持されるとは限らない。

それでも、医学部以外に高所得を目指す道が存在するという点は、進路選択の際に考慮してよいだろう。

周囲から優秀だと思われたかった

高収入を得る道が医学部以外にもあると分かっていても、それでも医学部にこだわり続ける人はいるだろう。

その背景には、医師という職業そのものへの希望だけでなく、周囲からの評価を重視する気持ちが含まれている場合もある。

医学部は入試難易度が高く、合格すれば学力面で高い評価を受けやすい。家族や友人から期待され、医学部を目指していること自体が本人の自信につながる場合もある。

しかし、医学部を断念すると決めたとき、こうした期待が進路変更の妨げになることがある。

友人には医学部志望だと話していたため、今さら別の学部を受験すると言い出しにくい。家族からも医学部合格を期待されており、進路変更がその期待を裏切るように感じられる。

あるいは、医学部以外へ進むことで、周囲から学力が足りなかったと思われることへの抵抗感もあるかもしれない。

しかし、医学部に合格できるかどうかは、大学入試における一つの結果にすぎない。

医学部に届かなかったという事実を認めることと、自分の能力全体を否定することは別の問題である。

また、周囲からの評価を基準に進路を選ぶと、医学部を断念したあとも同じ問題が残る。

医学部の代わりに偏差値の高い大学を選ぶ。医師の代わりに社会的評価の高い資格を目指す。

それ自体が悪いわけではないが、本人の関心や希望する仕事内容と一致するとは限らない。

そもそも、家族や友人から優秀だと思われることが、進学先を決める最大の理由であってよいのだろうか。

周囲からの評価は、進学後の学習内容や、その後何十年も続く職業生活を代わりに引き受けてくれるわけではない。

周囲への説明のしやすさと、自分に適した進路であることを混同しないようにしたい。

人の役に立つ仕事がしたかった

一方、収入や社会的地位よりも、純粋に人の役に立つ仕事がしたいという理由で医師を志望する人もいるだろう。

その希望自体は尊重されるべきものである。

しかし、世の中の仕事の多くは、誰かが必要としている商品やサービスを提供することで成り立っている。

企業が商品を販売し、従業員が給与を受け取れるのも、その仕事が顧客や社会に何らかの価値を生み出しているからである。

もちろん、社会に与える利益の大きさと報酬は必ずしも一致しないし、利益を生む事業が常に社会に望ましい影響を与えるとも限らない。

それでも、「人の役に立つ」という条件だけなら、医師以外の仕事の多くにも当てはまる。

食品メーカーは人々の食生活を支え、建設業は住宅や社会インフラを整備し、情報技術者は日常生活や企業活動を支える仕組みを開発している。

これらも、人々の生活を支える仕事である。

医師という職業の特徴は、単に人の役に立つことではなく、病気やけがを抱えた人に対して、医学的な判断や治療を直接提供することにある。

重要なのは、人の役に立ちたいかどうかではなく、誰に対して、どのような方法で価値を提供したいのかということである。

この点を具体化できれば、医療系以外にも多くの選択肢があることに気づくだろう。

親の期待によって医学部を目指していた

最後に、本人の希望だけでは進路を決められない場合についても考えておきたい。

例えば、親が医師で、将来は家業である診療所や病院を継ぐことを期待されている場合である。

本人も医師になりたいのであれば、問題はない。親の仕事を身近で見て育ったことが、医師を志望するきっかけになるのも自然なことだろう。

しかし、本人は医師という職業を希望しておらず、親の期待に応えるためだけに医学部受験を続けている場合、話は変わってくる。

先ほど紹介した2025年の研究では、入学時に医師になる明確な意思を持っていなかった学生の51.6%が、進路選択に親の期待が強く影響したと回答している。

一方、医師になる明確な意思を持っていた学生でも34.9%が親の期待を挙げており、親の期待そのものが問題だというわけではない。

問題となるのは、本人の意思と家族の希望が一致していない場合である。

医学部受験には多額の費用がかかる場合があり、とくに長期間の浪人生活を家族が経済的に支えているのであれば、受験生自身が進路変更を申し出ることは容易ではない。

また、親が診療所や病院を経営している場合、進路変更は本人の大学受験だけでなく、家業の将来にも関わってくる。

それでも、医学部に合格できる見通しが乏しいまま受験を続けることが、本人や家族にとって最善とは限らない。

医師の家庭に生まれたからといって、本人が医師になることを当然の前提とする必要はない。

家業の継承をどうするかという問題と、本人がどの職業に適しているかという問題は、分けて検討する必要がある。

進路変更で、同じ失敗を繰り返さないために

医学部を断念したあと、歯学部や薬学部を選ぶことは十分に合理的な選択である。

ただし、本人が医師になりたかった理由によって、適切な転進先は異なる。

高い収入を求めていた人が、医学部に近いという理由だけで薬学部を選んでも、期待した所得水準を得られるとは限らない。

医学研究への関心が強かった人なら、歯学部よりも理学部や薬科学系の研究分野が適している場合もある。

また、周囲からの評価を気にして医学部を目指していた人が、今度は別の難関大学や難関資格にこだわるのであれば、進路選択の基準が変わっていないことになる。

医学部を断念したからといって、必ず医療系に進む必要はない。反対に、医学部に合格できなかったことを理由に、自分の希望する仕事内容まであきらめる必要もない。

医学部以外への転進は、単に受験校の難易度を下げることではない。

自分が職業に求めている条件を整理し、その条件を満たせる別の進路を探すことである。

最後に――医学部をあきらめたあとに考えるべきこと

医学部を断念した人に、誰にでも当てはまる最適な進路があるわけではない。

患者を自ら診断・治療したかったのであれば、歯学部が有力な候補になる。医学や生命科学への関心が強かったのであれば、理学部、薬学部、農学部、工学部などにも選択肢がある。

高い収入や社会的地位、職業の安定性を重視していたのであれば、医療系以外の職業も検討する価値がある。

重要なのは、医学部に代わる進学先を探すことではなく、そもそも医学部に何を求めていたのかを明らかにすることである。

その目的によって、合理的な選択肢は変わってくる。

医学部に合格できなかったという事実と、自分が望む人生を実現できないということは、まったく別の話である。

進学教室FiveSchools

2018年に札幌に設立され、小学5年から高校3年まで5教科指導を行う総合進学塾。教科別「クラス授業」、通い放題「FIVE学習会」、1on1「個別指導」を指導の3本柱に常に高い実績を生み出し続ける。北海道の塾ながら、Webを通じて本州、九州、四国、時に海外まで広く塾生を抱えることも特徴。

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