NANAIRO DAYS
2026.10.21
※本記事は2026年10月時点の情報をもとに作成している。入試結果や予備校の学費等は年度によって変わるため、最新情報は各大学・予備校の公式資料で確認してほしい。
医学部医学科は、浪人生の多い進学先である。
現役で合格できなくても、1年間勉強して再挑戦することは珍しくない。2浪、3浪以上を経て医師になる人もいる。
しかし、医学部受験で浪人を考えるとき、避けて通れない問題がある。
浪人すれば、本当に成績は伸びるのだろうか。
さらに重要なのは、1浪で不合格だった人が2浪に進み、2浪で不合格だった人が3浪に進むことに、どれほど合理性があるのかという問題である。
医師になるという目標が明確なだけに、合格するまで挑戦したいという気持ちは強くなりやすい。しかし、浪人には時間も費用もかかる。
今回は、医学部の入試実績や学力変化に関する研究をもとに、浪人を続けるべき条件と、進路を変更するべき条件を考える。
愛知医科大学が公表する「2026年度医学部入試ガイド」には、2021~2025年度の浪人年数別の志願者・合格者構成比が掲載されている。
各年度について、合格者割合から志願者割合を引いた差を計算すると、次のようになる。
| 年度 | 1浪 | 2浪 | 3浪以上 |
|---|---|---|---|
| 2025 | +18.0 | +1.2 | −7.6 |
| 2024 | +10.0 | +2.9 | −7.9 |
| 2023 | +9.6 | +3.6 | −6.5 |
| 2022 | +11.5 | +2.4 | −13.1 |
| 2021 | +11.2 | +5.0 | −15.7 |
※単位はポイント。プラスは志願者割合より合格者割合が高いこと、マイナスは低いことを示す。
5年間すべてで、1浪・2浪生は志願者割合より合格者割合が高く、3浪以上では低かった。
2025年度を例に、具体的な割合を見てみよう。
| 区分 | 志願者割合 | 合格者割合 |
|---|---|---|
| 現役 | 24.2% | 12.8% |
| 1浪 | 33.0% | 51.0% |
| 2浪 | 18.6% | 19.8% |
| 3浪以上 | 24.1% | 16.5% |
1浪生は志願者の33.0%を占めるが、合格者では51.0%を占めている。
2浪生も、志願者割合より合格者割合がわずかに高い。
一方、3浪以上の受験生は志願者の24.1%を占めるにもかかわらず、合格者では16.5%にとどまる。
この大学の合格実績では、1浪生が特に良好で、2浪生も一定の実績を残している一方、3浪以上では悪化している。
もっとも、これは1大学の結果であり、すべての医学部に共通するとは限らない。また、合格者割合は、その区分の受験生が合格する確率を示すものではない。
浪人年数と合格実績の関係を考えるための、一つの資料である。
文部科学省が2018年に公表した医学部入試の緊急調査には、全国81大学の年齢別受験者数・合格者数が掲載されている。
2018年度の結果は、次のとおりである。
| 年齢 | 合格率 |
|---|---|
| 18歳以下 | 13.0% |
| 19歳 | 13.3% |
| 20歳 | 9.6% |
| 21歳 | 7.5% |
| 22歳以上 | 4.7% |
※合格者数を受験者数で割った割合。大学間の併願による重複が含まれるため、受験生個人の合格確率ではない。
出典:文部科学省「医学部医学科の入学者選抜における公正確保等に係る緊急調査の結果速報」
18歳以下はおおむね現役生、19歳は1浪生に相当する。
この調査では、20歳以上になると、年齢が上がるほど合格率が低下していた。同じ調査に掲載された2013~2018年度の6年間すべてで、同様の傾向が見られた。
ただし、2018年には医学部入試で年齢や浪人年数による不適切な取扱いが発覚している。文部科学省も同年12月の最終報告で、合理的な理由のない判定基準の差などを不適切と指摘した。
したがって、この合格率の差をすべて学力差によるものと考えることはできない。年齢と浪人年数が必ず一致するわけでもない。
現在の医学部受験にそのまま当てはめられる数字ではないが、過去の全国調査でも、高年齢層ほど合格実績が悪い傾向が確認されていた。
ここまで紹介したのは、浪人年数や年齢が異なる受験生集団の比較である。
しかし、これだけでは、同じ受験生の学力が浪人によってどう変化したのかは分からない。
例えば、1浪で医学部に合格した人は、翌年の受験生集団から抜ける。
1浪で合格できなかった人の一部が2浪となり、2浪でも合格できなかった人の一部が3浪となる。
つまり、浪人年数の長い集団には、それまでの受験で合格できなかった人が残りやすい。
このため、多浪生の合格実績が悪くても、その人たちの学力が年々低下しているとは限らない。
一方、同じ受験生の成績変化を調べた研究も存在する。
鈴木規夫の「共通1次試験連続受験者の成績推移に関する探索的解析」(1986年)である。
2017年に公表された木村拓也・安野史子・荒井克弘の論文では、この研究について、外国語では浪人による学力の伸びが大きい一方、国語では小さく、多浪生については年数の経過に伴う成績低下が報告されたと紹介している。
出典:木村拓也ほか「大学入学者選抜制度における『複数回受験』の研究」(2017年)
1986年の原著本文は今回確認できておらず、成績低下の程度や、合格者が抜けていく影響をどこまで区別できているかは確定していない。
また、研究対象は現在の共通テストではなく、当時の共通第1次学力試験である。
それでも、浪人を続ければ学力が上昇し続けるという考え方には、十分な根拠がないことは押さえておきたい。
現役時に学習が未完成だった受験生なら、1浪で大きく成績が伸びることは十分に考えられる。
例えば、理科の学習が間に合っていなかった人なら、未完成だった単元を学び直すことで、かなりの上積みが期待できる。
しかし、2年目、3年目にも同じだけ伸びるとは限らない。
考えられる原因の一つが、学習効果の逓減である。
基礎的な弱点を克服する段階では得点を伸ばしやすい。しかし、ある程度の水準に達すると、残された課題は高度な応用力や答案作成能力などに移り、改善が難しくなる可能性がある。
また、前年と同じ教材を使い、同じ問題演習を繰り返しても、それまで克服できなかった弱点が自然に解消されるわけではない。
浪人年数が増えることによる心理的負担や、受験勉強への疲労感なども考えられる。
これらは成績の停滞・低下を説明する仮説であり、それぞれの影響の大きさが医学部受験生について実証されているわけではない。
重要なのは、本人の成績が実際にどう変化しているかである。
共通テストは年度によって難易度が異なるため、前年より得点が上がっていても、その分だけ学力が伸びたとは限らない。
模試についても、1回の好成績や不振を過大評価することは避けたい。
同じ種類の模試について、同じ時期の偏差値・順位を比較し、複数回の成績推移から医学部の合格水準との差が実際に縮まっているかを判断するべきである。
例えば、現役時と1浪時の夏・秋の模試をそれぞれ比較すれば、年間の学力変化を把握しやすい。少なくとも3回程度の成績推移を確認し、特定の1回だけで判断しないことを勧めたい。
実際の入試で合格最低点に近づいたかも重要だが、1回の入試結果だけでなく、模試の成績と併せて判断する必要がある。
2024年に公表された昭和大学医学部の宮崎章による特別寄稿では、2017年9月時点の医学部3~6年生566人について、浪人年数と留年経験率の関係が紹介されている。
| 区分 | 留年経験率 |
|---|---|
| 現役 | 4.2% |
| 1浪 | 7.6% |
| 2浪 | 17.3% |
| 3浪以上 | 28.3% |
この調査では、浪人年数が長い学生ほど、入学後に留年を経験した割合が高かった。
また、別の調査で2010~2016年度に3浪以上で入学した55人を追跡したところ、留年せず6年間で卒業し、そのまま医師国家試験に合格した人は37人(67.2%)だった。
一つの大学の観察結果であり、浪人したこと自体が留年の原因だと証明したものではない。また、この相関が年齢による入試上の差別を正当化するわけでもない。
医学部受験では、入学に必要な学力だけでなく、入学後も学習を続けられるかという点も重要である。
医学部浪人では、予備校の学費も無視できない。
例えば、駿台予備学校の2026年度高卒生クラスでは、4月入学の場合、年間授業料が98万~145万円、入学金が10万円である。入学説明会への参加による入学金の減額や、学費優遇制度もある。
一方、医学部専門予備校メディカルラボの2026年度高卒生向け医学部受験コースは、入学金・授業料・管理費・施設利用費を合わせて年間527万9,500円である。任意の季節講習等は別料金となる。
前者は集団授業、後者は個別指導を中心とする予備校であり、指導体制は異なる。また、これらは各校の料金例であり、医学部浪人生全体の平均費用ではない。
しかし、学習環境の選択によって、年間の学費に数百万円もの差が生じ得ることは分かる。
さらに、下宿する場合の生活費や、大学への受験料、交通費、宿泊費なども必要になる。
浪人するほど医学部への入学・卒業、医師として働き始める時期も遅れる。
医師の平均年収を浪人年数に掛けて、そのまま損失額と考えることは適切ではないが、予備校に払う学費だけが浪人の費用ではない。
1浪では負担できる金額でも、2浪、3浪と続けば、家庭への負担は大きくなる。
現役で医学部に届かなかったとしても、1浪によって合格可能性が大きく改善する場合はある。
特に、受験勉強を始める時期が遅かった人、理科の完成が間に合わなかった人、特定科目に明確な弱点が残っている人などは、改善するべき課題が具体的である。
こうした場合には、1浪を選ぶ合理性は十分にある。
一方、現役時点ですでに十分な学習時間を確保していたにもかかわらず、医学部の合格水準まで大きな差がある場合は慎重に考えたい。
何を改善することで、どれだけ合格に近づける見込みがあるのか。
それを説明できることが、1浪を選択する際の重要な条件となる。
1浪終了時には、現役時にはなかった判断材料が得られる。
それは、実際に1年間勉強した結果である。
現役時から1浪時にかけて模試の偏差値や順位が改善し、医学部の合格水準に近づいているのであれば、2浪にも合理性がある。
愛知医科大学の入試実績でも、2浪生の合格実績は1浪生ほどではないにせよ、決して悪いわけではなかった。
一方、1年間勉強しても成績がほとんど変化していない場合は事情が異なる。
同じ勉強方法をもう1年間繰り返せば、突然大きく伸びるという期待には根拠が乏しい。
学習方法を根本的に見直すことで改善する可能性はあるが、そのためには前年までに伸びなかった原因を特定し、具体的な対策を立てる必要がある。
1浪しても合格可能性がほとんど改善していないなら、2浪は当然の選択肢ではない。
医学部以外の進路も検討するべきである。
では、医学部を断念した場合、具体的にどのような進路を選ぶべきなのだろうか。
本人が医師を志望した理由や、得意科目、経済状況などによって答えは大きく異なるが、この問題については次回の記事で考察したい。
2浪終了時点では、高校卒業からすでに2年間が経過している。
ここから3浪に進むのであれば、再挑戦を正当化するための根拠は、より厳しく求められる。
例えば、2浪時の入試で合格最低点にわずかに届かず、複数回の模試でも安定して合格圏に近づいているのであれば、3浪が合理的な選択となる場合はある。
一方、2年間勉強しても医学部の合格圏に届かず、成績が横ばい、あるいは低下しているのであれば、3浪は勧めにくい。
医学部合格者に多浪生が存在することは、その受験生自身が翌年合格できる根拠にはならない。
2浪終了時点で医学部合格の見通しが立っていないなら、医学部以外への進路変更を基本方針として考えるべきだ。
これは3浪以上の受験生に合格の可能性がないという意味ではない。次の1年間で何を改善できるのか、その見通しが立たないまま浪人を続けることを勧めないということである。
医学部浪人が長期化するほど、進路変更は難しくなりやすい。
1年間勉強したから、もう1年。
2年間頑張ったのだから、今さら諦められない。
家族が多額の費用を負担してくれたのだから、合格するまで続けたい。
しかし、過去に費やした時間やお金は、これから浪人を続けても取り戻せない。
経済学では、このような取り戻せない費用を「サンクコスト(埋没費用)」という。
これからの進路選択で考えるべきなのは、すでに失ったものではなく、次の1年間を費やすことで何が得られる見込みなのかという問題である。
過去に2年間浪人していたとしても、次の1年間で合格できる可能性が十分に高いなら、再挑戦には合理性がある。
逆に、過去にどれほど努力していても、今後の合格可能性がほとんど改善しないのであれば、その努力を理由に浪人を続けるべきではない。
医学部受験は、合格しなければ医師資格へとつながらない。
浪人を続けることは、医学部以外の大学へ進学し、別の専門性を身につける機会を先送りすることでもある。
医学部受験において、浪人年数だけで再挑戦の可否を一律に決めることはできない。
1浪によって大きく成績を伸ばす人もいる。2浪、3浪以上で医学部に合格する人もいる。
しかし、浪人を重ねれば、それだけ合格に近づくという根拠はない。
再挑戦を決める前に、少なくとも次の3点を確認したい。
浪人年数が増えるほど、これらの条件を厳しく評価する必要がある。
「もう1年頑張りたい」という気持ちは、浪人を始める動機にはなる。しかし、浪人を続ける根拠にはならない。
これまで何年間努力してきたかではなく、これからの1年間に何を改善できるのか。
それこそが、浪人を続けるかどうかを決める判断基準である。
進学教室FiveSchools
2018年に札幌に設立され、小学5年から高校3年まで5教科指導を行う総合進学塾。教科別「クラス授業」、通い放題「FIVE学習会」、1on1「個別指導」を指導の3本柱に常に高い実績を生み出し続ける。北海道の塾ながら、Webを通じて本州、九州、四国、時に海外まで広く塾生を抱えることも特徴。
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