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2025.06.22
わたし村上は過去に5年ほど日本語教師として外国人留学生の指導にもあたった経験があり、日本人向けの文法、外国人向けの文法の両方を教えることができます。その経験をふまえて、今回の記事を書いてみようかなと。
一般的な日本の中学校で教えられている「学校の国語文法」と、外国人向け日本語学校で教えられている文法は、似ている部分も多々あるのですがそれなりに違いもあるものです。
そのうち、中学生レベルでわかりやすそうなものをいくつかご紹介しようかと思います。
たとえば、活用形。
日本の学校文法だと「未然形、連用形、終止形、連体形、仮定形(已然形)、命令形」の6つに分類しますよね。
ところが、日本語学校文法だと、以下のように名称が変わります。
・未然形 → ない形(否定形)
「未然」なんて言葉じたい、今は「犯罪を未然に防ぐ」みたいな文脈でしかほぼ使わない言葉ですし、それを日本語初学者に言ったところで伝わるはずがない。
で、未然形というのは「走ら+ない」「見+ない」のように「ない」につながる形なので「ない形」という大変わかりやすい名称で日本語学校では運用されているわけです。
「否定形」ということもあると思いますが、これも日本語初心者に「否定」という言葉を伝えるのが面倒なので、わたしが勤めていた日本語学校では一度も聞いたことがありません。
さらに複雑なのが連用形です。
・連用形 → ます形(丁寧形)/ て形
まず、単純な名称の問題から。
「連用形」というのはつまり「用言に連なる」ということですから、「用言」という概念が先にあって初めて成立する名称です。
「用言」なんて外国人学習者に教える機会があるでしょうか、いや、ない。
ということで、「未然形→ない形」へと変化したように、連用形もシンプルな名称で表されます。
そして、ここでさらにもう一つポイントが。
学校文法では「連用形」ひとつしか名称がないのに、日本語学校では「ます形」と「て形」の2つに分離しているということがわかります。
このへんの事情は「やさしい中学国語」で詳しく書いてあるのですが、かいつまんで話すと、もともと古典文法では「ます」がつく形と、「て」がつく形は同じだったんですね。
「走り+ます」
「走り+て」
ところが、近代になると「て」がつく形のほうが「音便化」してしまって、
「走り+ます」
「走っ+て」
という形に分離してしまったわけです。
これを「もともと同じ形だったから、連用形のままでいこう」と判断したのが学校文法ということです。
どうせ高校に行くと古典文法を習うわけですから、中学校で習う現代語学校文法と高校古典文法の間にズレがないほうが生徒になじみやすいわけです。
だがしかし、外国人日本語学習者は一部のマニア、研究者を除いて日本の古典文法を勉強する必要も機会もない。
であれば「ます形」と「て形」という2つの形に最初から分けて勉強するのが、少なくとも一般的な日本語学習者にとっては合理的だという結論に至るのは当然のことです。
そして、実はこれと同じ現象が、最初に述べた「未然形」にも実は起こっているのです。
さっき書いた未然形も、本当は
・未然形 → ない形(否定形)/ 意向形
という2つに分かれているのが実際のところです。
意向形というのは「う」がつく形のことですね。
古文では、それぞれ
「走ら+ず」
「走ら+む」
という形だったのが、これも近代になって
「走ら+ない」
「走ろ+う」
という2つの形に分離する結果になったのです。
これを「未然形」としてまとめて教えるメリットは古文を勉強しない人には一切ありませんので、これも「ない形」「意向形」という2つの形に最初から分けて教えられます。
思ったより長くなってしまったので次回へ引っ張ります。
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